アリス と テレス

 アリストテレース詩学』第4章「詩作の起源とその発展について」より

 一般に二つの原因が詩作を生み、しかもその原因のいずれもが人間の本性に根ざしているように思われる。

(1)まず、再現(模倣)することは、子供のころから人間にそなわった自然な傾向である。しかも人間は、もっとも再現を好み再現によって最初にものを学ぶという点で、他の動物と異なる。

(2)つぎに、すべての者が再現されたものをよろこぶことも、人間にそなわった自然な傾向である。このことは経験によって証明される。なぜならわたしたちは、もっとも下等な動物や人間の死体の形状のように、その実物を見るのは苦痛であっても、それらをきわめて正確に描いた絵であれば、これを見るのをよろこぶからである。

 その理由は、学ぶことが哲学者*1にとってのみならず、他の人々にとっても同じように最大のたのしみであるということにある。――ただし哲学者以外の人々が学ぶことにあずかる程度は限られているが。――じじつ、人が絵を見て感じるよろこびは、絵を見ると同時に、「これはかのものである」というふうに、描かれている個々のものが何であるかを学んだり、推論したりすることから生じる。人が実物を以前に見たことがない場合、絵がよろこびをあたえるとすれば、それは、絵が再現であるからではなく、仕上げの巧みさ、色彩、あるいはこれに類する他の原因によるものであろう。 

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論 (岩波文庫)

*1:知を愛する者