りるけ

 『リルケ詩集』(新潮文庫)より

   世界はあった 恋びとの顔のなかに

世界はあった 恋びとの顔のなかに
けれどもたちまち流れでて
世界はいま外に 世界は捉えるすべもない

ああ なぜ私は吸わなかったか それを掬いあげたとき
あふれる恋びとの顔から
世界――私の口に近く 匂っていた世界を

いいや 私は吸ったのだ どんなに果しなく吸っただろう
けれども私のなかにもありあまる世界があって
吸いながら 私もあふれていったのだった

    Welt war in dem Antlitz der Geliebten, Rilke

 リルケ、いいよリルケ

リルケ詩集 (新潮文庫)

リルケ詩集 (新潮文庫)